読書記録 老人喰いー高齢者を狙う詐欺の正体
脳が壊れた、が非常に面白かったので同じ著者のを読んでみました。
これです。
鈴木大介の本は良いなぁ。
こう、信念が感じられて好きなジャーナリストです。
中立ぶってる人は嫌いなので。これくらい筆者の思いを感じるほうが私は好き。
特殊詐欺グループの日常♡
最初の章から飛ばしすぎでは?と思うような光景が描写される。
特殊詐欺の定番、オレオレ詐欺の「箱」(店舗事務所=実行犯グループ)の毎朝の光景。
箱で、サラリーマンのように働く「プレイヤー」(被害者に電話をかける要員)たち。
プレイヤーたちは毎朝「出勤」(詐欺なので仕事と言えるかどうかはともかく)してから「御法度9か条」を唱和し、それに沿って、徹底して足がつかないように行動することを叩き込まれる。
御法度9か条は、酒、薬、女、博打、喧嘩、他業、服装、家族、銀行。
全て警察の摘発を逃れるための条項だ。
酒→詐欺で稼いだ金を使って、不用意にキャバクラで豪遊すると、資金源が疑われるため。
薬→そも論外
女→恋人に稼業をばらすと噂になる可能性がある
銀行→巨額の預金は怪しまれるため現金で隠しておく
等々の理由で設定されている。
もちろん、出勤時には怪しまれないように髪型や時計のブランドに至るまで事細かにドレスコードが決められているし、エレベーターのボタンに指紋を残さないように押すなど徹底している。
現代の詐欺集団って本当に高度に統率されてるんだなぁ。
合理性だけ見れば、組織として高いレベルで成り立ってるとすらいえる。
もちろん2流はすぐ摘発されるけど、一流()の犯罪組織がつくる詐欺集団は、もはやテンプレ化してるとすら言える。
ここまでテンプレ化しているのだから、もちろん、誰をターゲットにすれば最も効率よく、多額の金が奪えるか、も研究済みだ。高齢者。
名簿屋によって詐欺成功率は大幅アップ♡
名簿屋の存在。
これまで詐欺に引っかかった人間のリストが取引されている、程度の認識だったので驚いた。
それはあくまで初歩の初歩の話。
詐欺現場の要請は明白。”もっと金をもっていて、もっと騙しやすい高齢者だけ”の名簿だ。
一般的な高齢者名簿というと、名前、住所、電話番号のみ、生年月日があれば良い方、といった程度。
名簿屋は、名簿に記載された高齢者に”直接”連絡を取り、付加情報を追加してから詐欺集団に売るようになった。
その手口も巧妙で、「騙り調査」という手段を用いる。警察や国勢調査、地元の福祉事務所等による居住状況調査だとか安否調査といった名目を騙る。
交渉と同じで、詐欺をしかける段階も、準備が全てってことね…。
もうこの下見調査から詐欺は始まっているわけだ。
オレオレ詐欺の電話にだけ気を付ければいいっていう単純な話ではないんだな。
オレオレ詐欺の電話の定番は「三役系」いわゆる劇場型詐欺。
ポイントは、息子(娘でもいいが)役以外の役2人が代わる代わる電話口に出ることで、ターゲットを混乱させ、判断力を下げること。絶体絶命のピンチ(脅し役)と救いの手(冷静に状況を説明する役)を同時に投げかけることで、ターゲットはむしろ「解決のためにお金を払わせてください」と言いたくなる心理状況に追い込む。
名簿屋の下見調査によって、息子役は実際の息子の名前を名乗るし、脅し役は息子の会社名や役職まで知っているのだから益々リアリティは高まる。
さらにさらに、ターゲットは詐欺であることを確信しても、相手が自分の身内の情報を握っている、暴力で報復されるかもしれないという恐怖から、お金を支払ってしまうことが多いという(!!!)
脅し役がキレちらかして、相手に恐怖を植え付けるとより効果は高まる、みたい。
なんて恐ろしい手口なんだ・・・。
被害者心理にありがちなのが、ここで一度お金を払ってさえしまえば追い返せる・・・というもの。実際は一回でも払ったらカモ。
フィーバー(一度カネを奪ったターゲットから2度三度と奪い続けること)の可能性も見えてくる(嫌すぎる)
ちなみに、実際の特殊詐欺グループは先述したように、警察からの摘発を何より警戒しているので、わざわざ直接危害を加えに行くというのはほぼ無いと思っていい。
騙すほうが本気すぎる♡
騙される方が愚か?とんでもない。
”騙す側が、圧倒的に洗練されている”のである。と著者は言う。
引用P45
詐欺組織は徹底的に管理された高度な集団で、プレイヤーたちがこうした役回りの技術を徹底的に磨き上げ、それを支える名簿の精度が急速に進化したから、被害は減らない。
しかもこれは、詐欺の中では古典的とされているオレオレ詐欺の話。
もっともっと実態は酷い。「名簿の内製化」と「ストック強化」が進んでいる。
「名簿の内製化」これまでは名簿屋にやらせていた調査を内製化する。
理由としては、
・プレイヤーOBの人間の方が精度の高い情報を嗅ぎ分けられる
・名簿の作製には資金力が必要なため、資金力のある詐欺組織が直接作った方が話が早い
・詐欺の収益金の受け渡し 銀行が規制強化で難しくなり、手渡し(ウケ子)が行うように変化。摘発の可能性がいっきに上がった→高精度の名簿でないと同じ人間に短期間で凸しすぎて通報されたりするリスクの顕在化
「ストック強化」
今の50代60代の資産を持っている人間のリストを今から作っておく。
5年後10年後、判断力の落ちたところを狙っている…。
高度すぎる手口!もう会社以上では?
特殊詐欺の店舗開業には資金が必要。
トバシSIM(第三者名義の携帯電話回線)、事務所、人件費、・・・
それを提供するのが、株式会社でいう株主にあたる、「金主」「オーナー」と呼ばれる者たち。当然、収益に応じた配当を受け取る。
取締役社長にあたるのが、「番頭」と呼ばれる存在。
詐欺に必要な設備を準備し、現場店舗を運営する。どちらかというと支社長に近い。
番頭の下に、店長や平プレーヤーがつく。といった組織構造。
階層ごとに分断されており、平プレーヤーは番頭の顔すら知らないということがほとんど。
これは、平プレーヤーが摘発されたとしても、番頭、さらにその上の金主には行きつかないようにするため。
また、万が一番頭が摘発されても、番頭は金主を絶対に売らない。
その後の人生、闇稼業で生きていなくなるし、生涯報復におびえることとなるから。
番頭クラスになると、闇稼業で生きていく覚悟を決めている者だから。
この後は、
衝撃!ブラックすぎる研修でふるいにかけられる詐欺グループの新人候補たち!編
老人喰いプレーヤーってどんな人たち?編
とか色々あってとっても楽しいのでぜひ本編読んでみてね~!
盗人にも三分の理というけど、まさに特殊詐欺に加担する人たちはそんな感じ。
・金持ってる老人からとって何が悪い。金のないやつからとるのは最悪だけど、金を持ってるやつから奪うのは最悪じゃない。
・自分たちはこれまで苦労してきた、その分を取り返すんだ
こういう考えがある。
でもさ、結局詐欺組織に資金提供する「金主」という存在や、資産管理を専門家に任せるような超がつくお金持ちが一人勝ちって構造なんだよなぁ。
特殊詐欺の被害者になるような人間も所詮は小金持ち…。
あー地獄みたいだ。
もっと若い人にお金を回しておけば、ここまでひどくならなかったんだよっていう筆者の主張も、理解できる。
もう、数でどうあがいても勝てなくなっちゃったからどうしようもないんだけどね。